今回は商業小説。
著者:小林 泰三さん
出版:東京創元社の
「アリス殺し」「クララ殺し」「ドロシイ殺し」「ティンカー・ベル殺し」4作品からなるシリーズをご紹介。
タイトル起用キャラクター達それぞれの世界を舞台に
各メルヘン界の住人達が凄惨な殺人事件の被害者・加害者となる
とんでもなくえげつないダークメルヘンミステリーです。
私が持っているのは文庫版で挿絵一切なし。
表紙の主要キャラ1名×4と創元社の特設サイトにシリーズ通して登場するキャラが載ってるくらいしか資料が無いのでファンアートは描きづらい。
ハードカバー版も同じかは分かりませんが、雑誌連載時は各話扉絵とかあったっぽい?(全て同じイラストレーターさん描画)
実際私は表紙に惹かれて手に取った訳ですし、文庫表紙の写真だけ載せておきます。
とても残念な事に2020年に作者様が逝去された為、シリーズとしては未完の状態です。
とはいえ作品ごとの事件は1作品中で片が付くので
1冊目のアリス殺しだけでもグロ耐性がある方には読んでみて貰いたいのでレビュー打ってみました。
出来る限り前情報無しで読んで私と同等以上の衝撃を味わって欲しいので、気になったならこの先読まないでいいからアリス殺しをまず探しに行って欲しい。誰かの感想を頭に入れないまま読んだ方がいいです。
ただ、主要がメルヘン界の住人だからか
会話や行動内容が要領を得なかったり不条理だったりで好き嫌いが分かれる文脈ではあるし
遺体の状態や殺害シーンの描写が容赦無く詳細でかなりエグイ
という難点はあるのでそこだけは注意。
無料サンプルはGooglePlayブックスが長めだったので、とりあえず試し読みしたい方はこちらからどうぞ。
もう少しお付き合いいただけるなら以下、詳しめの紹介と個人的な感想。
「アリス殺し」概要
大学院生の栗栖川亜理は、ふとしたタイミングで自身が連続した内容の同じ夢を見ている事を自覚する。その内容は不思議の国で過ごすアリスという少女が不思議な住人達とおかしな会話や問答をし合う情景。
ある日、亜理は「不思議の国でアリスと蜥蜴のビルが交わした合言葉」を知る人物、井森建と出会う。井森はビルと記憶を共有しており、さらにハンプティ・ダンプティと記憶を共有している人物とも知人関係だった。
しかしその人物は、不思議の国で発生したハンプティ・ダンプティ墜落死事件と酷似する形で死亡しており…
一方、不思議の国ではアリスがハンプティ・ダンプティ殺害容疑者として疑われ、潔白が証明できなければ斬首刑にされかねない事態となる。
アリスの処刑とその先に想定される結果を回避すべく、亜理とアリスはそれぞれの世界で井森とビルに協力して貰いながら、真犯人解明調査を開始する。
感想
元々童話派生のオハナシ大好き&夢と現実がリンクする展開好きなもので、偶然見かけたメルヘンながらもダーク感溢れる小説表紙とあらすじに惹かれて一作目を購入。古本屋で。
がっつりハマったので続刊以降はちゃんと新品で揃えました。
何回でも言いますが文章だけながらも描写がとてもグロテスクです。
サスペンスものって犯人発覚時に本人自供でサックリ殺害時のことを説明するのみで、ハンプティ事件で例を挙げると「背中押して突き落としてやった」程度で言ってくるのがほとんどですが
本シリーズでは犯人からの説明ではなくキッチリ第三者視点で情景描写されます。被害者がどう抵抗してどう無下にされてどう抵抗力奪われてどう息の根を止められるかまで、事細かに。
メルヘン住人なせいか生命力も高いもんだから仕留めるまでが長く、容赦無いオーバーキル展開でやめてあげて感がすごい。
犯行模様じゃなくてもメルヘン住人は感覚がアレなので捜査中にもヤバいことしてたり。
段々「これギャグかも知れないな」な感覚にはなります<麻痺してる
でもグロさ・エグさを気にせず読めるなら伏線回収構成力の素晴らしさが堪能できる作品で、ミステリーとしての完成度がものすごく高い。
正直映像で見たいとはあまり思わないのでメディア展開されない方がいいと思ってます…がそれはグロ絵面がって観点でなく、伏線諸々の仕掛けとかメルヘン界住人同士の要領を得ないどうしようもない会話やり取りとか、文章のみだからこその魅力があるのでそのままが一番いいという意味で。
伏線が分かってから2周目読んだら「うっわぁもうココでコレ言ってる!」で鳥肌。
というか1周目時点からちょっとした違和感を感じさせてくれてて、分かった時に「あーなんか引っかかってたのってコレか!」と膝を打ちたくなる、絶妙な散りばめ具合です。
人物同士の会話はマトモ思考のアリスとフシギ思考の住人達との嚙み合わない会話がほとんどで、ダメだコイツら感。
協力者のはずのビルでも…読んでて ハハハバカワイイナァ→ビルテメェコノヤロウ→アアアアビルオマェェ!!→アァマァビルナラショウガナイ(悟り) ってなる。井森君ドンマイ。リンクする人間が頭脳派でも良識有っても不思議界ではどうしようもないっていう。
このあたりの、夢の中にどうにも手を出せないもどかしさがいいスパイスになってます。夢から目覚めて自分の夢内の行動に突っ込み入れる事ってよくありますよね。無い?私はあるのですごく共感しました。
この会話応酬や行動について童話の雰囲気っぽいと捉えて楽しめるか、長々と読んでられないと嫌気がさしたり投げ出したくなるかで作品評価は分かれるっぽいですが…この会話早く終わらないかなと思った時点でアリスと思考が近しくなって読者が作品とリンクし出しすので、そっからも仕掛けが効いてる気も。
ダメだコイツら感と評してますが、不思議な愛嬌も感じられるので呆れながらも見守ってやりたい感覚になります。
あと、小林さんは原典と関連書籍を読み込んで、あらゆる要素を盛り込んでるのが作品通して伝わってきて凄い。
アリスで言うと何か恐ろしい化け物出るけどナニコレ…原典に出るの?で怯えながら検索したら著者の別作品要素かつ、鏡の国で名前だけ登場。よく調べてるなぁ…
なので厳密にはメルヘン殺しシリーズの各舞台は題材童話そのものというより原典作者の世界という方が正しいのかも知れません。
続編以降も色々と。
クララはそういうのあるんかぁで興味湧いたし、オズの魔法使いシリーズは数冊持ってるんですがあんなやばいの居たっけ…で読み直したり持ってないのまた集めたいと思ったり、ピーター・パンは原典から物騒かも知れないという印象になりそもそもキャラ知ってるけど展開知らないわでちょっと探して読みたいと思ったり。
よく知ってる(つもりの)オハナシについて知らない部分を見せてくれて、題材関連作を読み漁りたくなる気持ちにさせてくれる点からも良質の作品だと思います。
まぁえぐい入口ですけど。
明かされない謎が残ったままですが、初めて作品読んだ時の「この作者さんスゲェ!」な衝撃が凄かったので
たまたまこの記事見た未読の方が読んでみて同じ衝撃を味わうきっかけに少しでもなれればいいなーと思います。
未完だけど面白いんです、とても。
あと小林さん、スター・システムがお好きなようで、2作目以降は別作品の主要キャラクターがサブ位置…どころか関係者として混ざってきます。
もう一つサスペンス短編集も読んだのですが、そっちにも居たりする。
印象的でこれまた魅力的なキャラ達なので、出所作品を読みたくさせる…そのあたりもニクイ。
大体が推理というよりホラー作品なのですが。